ヴィンテージ vs 新品
随分前の話になりますが、私はポリーニのリサイタルのチケットを買って、当日、演奏会場に行きましたところ、突然「中止」の案内をされました。同氏のリサイタルのキャンセルは知られたことなので、別段驚きませんでしたが、正直ガッカリしました。
その音楽ホール内で、別のリサイタルのチケットが先行販売されている様子でしたので、売り場に行ってみましたところ、「近日中に、別のホールでミケランジェリのピアノリサイタルが催される」という事が分かりました。
「ポリーニの代わりにミケランジェリの演奏会に行く」というのも、ちょっと変な話ですが、私はその場で、同氏によるリサイタルのチケットを購入しました。
当日の演奏会は素晴らしいもので、まさに「完璧」と叫びたくなったほどでした。
ところで、2003年にDVDとして発売された同氏の「ルガーノリサイタル」のライブ録音について、気になる記事を読んだ事があります。
これは、「1981年にの同氏によるリサイタルを再現したもの」ということになっていますが、実は「別の日に、違うピアノで演奏されたものを録音したのではないか?」というものです。
真偽はともかくとして、このように囁かれる理由は、実は、「製造年代による楽器の質の違い」にあるのです。
ミケランジェリ氏は、同リサイタルの2か月前に、1910年代のスタインウェイによる録音を行っています。それは、「ルガーノリサイタルで使用したピアノ」とは別の物だったことは、ライブの撮影をしたヤーノシュ・ダルヴァシュ氏の記述より、知ることが出来ます。
その音から「新品では醸せない深い味、温かい響き」が奏出されていること」は、ピアノを長くやっていらっしゃる方なら瞬時に分かると思います。
また、1974年にミケランジェリが来日した時のインタビュー内容が、「レコード芸術」という音楽雑誌(1975年1月号)に掲載されており、ここで同氏は、「現在のピアノ製造のあり方に関する問題点」について語っています。以下、 そのインタヴューの記事内容を、簡単にご紹介します。
インタビューアー:「ピアノは今後さらに構造的に変わっていくとお思いですか?」
ミケランジェリ氏:「更にに良くなるということより、むしろ、前の状態に戻ることが先決問題だ。ピアノ製造の方式がアメリカ式になってしまい、まるで、何でも良いから作れば良い」という状態になってしまった。早く作らなければならないために、部分品の質が低下し、安く作るために良い材料を使わなくなった。つまり、大量生産をするために、製作期間が短くなった。どんな小さな楽器でもそうだが、特に、ピアノは手工業的に作られるべきもので、絶対に工場で大量生産するべきものではない。」
ミケランジェリは別の対談の中で、「昔はピアノを選びに行けば10台中6、7台は良いモノがあったのに今は割合が逆になっている。」と発言しています。
彼は十羽ひとからげに「新しいピアノはダメだ」と言っているのではなく、「昔の方が質の高いピアノが多かった」と解釈するのが妥当かと思います。
しかし、今では、その「ミケランジェリ氏の対談のときから、更に大きな年月が流れていること」を、忘れてはなりません。
このように新品と年代物を比較するとき、よく話題に挙がるのが、「木材の質」ですね。
「 資源に恵まれていた昔の楽器の方が響きが良い」と仰有る「ヴィンテージピアノ愛好家」の方々の は、「ピアノに適した木々は、大量伐採によって絶対量が減少してしまったこと、そのため、響鳴板などに使われる希少な木材の確保は楽器製造会社にとって困難を極めていること」をよくご存知でいらっしゃいます。
以前は「高級な響板はルーマニア産のスプルース材」と決まっていたようなものですが、そのうち、「アラスカをはじめとして別の産地の木材」が主流になってしまいました。
それから、今に至っては、残念ながら、木材の原産地の変更の必要ばかりか、合板の製造技術だけが発達していることを否めません。それらは、ピアノの音色や響きの質を著しく落としてしまっていることに、異論を唱える人は恐らくいないでしょう。
ここで、ミケランジェリ氏の「手工業的に作られるべき」という言葉について、注釈を加えたいと思います。
彼は、決して「ピアノの生産システムがハンドメイドであるべきだ」と言っているのではありません。
アクションや鍵盤など、均質な精度が求められる部品の加工や成型については、工作機械を用いた方が正確であるという利点もあります。
因みに、私のグランドピアノの低音弦は、「手作業」によって銅線が巻かれています。しかし、それについて調律師さんに尋ねたところ、「機械の方が精度が高いこともある」というご説明を頂きました。しかし、アニバーサリーモデルですので、一般の同機種より「木材」をはじめ良い物が使用されています。
ピアノは、人の感性に響く楽器ですから、やはり最後の仕上げは職人さんの手で、時間をかけて作り上げて欲しいところなのですが、社会事情の急速な変化に伴って、それが難しくなってしまいました。
つい先日、ある行きつけのスーパーで、今まではレジ係の人が精算してくれてたのに、突然、精算機なるもので、自分で機会にお金を投入して支払いをするシステムに、変更されていました。
ピアノの製造というものは木材だけでなく、そのような「社会の動き」とも密接に連動していますから、楽器を知るためには、社会全体の動きに敏感である必要があるのです。
これから楽器をご購入なさる方は、じゅうぶんな知識を蓄えてから、慎重にお選びになることをお勧めします。
新品のピアノの場合、「製品の個体差は止むを得ない」(アップライトピアノの場合、某メーカーでは個体の選定が出来ません。)ので、そこは妥協したとしても、「何を基準に、どのように入手すれば失敗しないか」というイメージを、事前にしっかりと描いておいて下さい。
お一人お一人が満足できるピアノを出会って、一生音楽を愛好していかれることを、心より願っております。
その音楽ホール内で、別のリサイタルのチケットが先行販売されている様子でしたので、売り場に行ってみましたところ、「近日中に、別のホールでミケランジェリのピアノリサイタルが催される」という事が分かりました。
「ポリーニの代わりにミケランジェリの演奏会に行く」というのも、ちょっと変な話ですが、私はその場で、同氏によるリサイタルのチケットを購入しました。
当日の演奏会は素晴らしいもので、まさに「完璧」と叫びたくなったほどでした。
ところで、2003年にDVDとして発売された同氏の「ルガーノリサイタル」のライブ録音について、気になる記事を読んだ事があります。
これは、「1981年にの同氏によるリサイタルを再現したもの」ということになっていますが、実は「別の日に、違うピアノで演奏されたものを録音したのではないか?」というものです。
真偽はともかくとして、このように囁かれる理由は、実は、「製造年代による楽器の質の違い」にあるのです。
ミケランジェリ氏は、同リサイタルの2か月前に、1910年代のスタインウェイによる録音を行っています。それは、「ルガーノリサイタルで使用したピアノ」とは別の物だったことは、ライブの撮影をしたヤーノシュ・ダルヴァシュ氏の記述より、知ることが出来ます。
その音から「新品では醸せない深い味、温かい響き」が奏出されていること」は、ピアノを長くやっていらっしゃる方なら瞬時に分かると思います。
また、1974年にミケランジェリが来日した時のインタビュー内容が、「レコード芸術」という音楽雑誌(1975年1月号)に掲載されており、ここで同氏は、「現在のピアノ製造のあり方に関する問題点」について語っています。以下、 そのインタヴューの記事内容を、簡単にご紹介します。
インタビューアー:「ピアノは今後さらに構造的に変わっていくとお思いですか?」
ミケランジェリ氏:「更にに良くなるということより、むしろ、前の状態に戻ることが先決問題だ。ピアノ製造の方式がアメリカ式になってしまい、まるで、何でも良いから作れば良い」という状態になってしまった。早く作らなければならないために、部分品の質が低下し、安く作るために良い材料を使わなくなった。つまり、大量生産をするために、製作期間が短くなった。どんな小さな楽器でもそうだが、特に、ピアノは手工業的に作られるべきもので、絶対に工場で大量生産するべきものではない。」
ミケランジェリは別の対談の中で、「昔はピアノを選びに行けば10台中6、7台は良いモノがあったのに今は割合が逆になっている。」と発言しています。
彼は十羽ひとからげに「新しいピアノはダメだ」と言っているのではなく、「昔の方が質の高いピアノが多かった」と解釈するのが妥当かと思います。
しかし、今では、その「ミケランジェリ氏の対談のときから、更に大きな年月が流れていること」を、忘れてはなりません。
このように新品と年代物を比較するとき、よく話題に挙がるのが、「木材の質」ですね。
「 資源に恵まれていた昔の楽器の方が響きが良い」と仰有る「ヴィンテージピアノ愛好家」の方々の は、「ピアノに適した木々は、大量伐採によって絶対量が減少してしまったこと、そのため、響鳴板などに使われる希少な木材の確保は楽器製造会社にとって困難を極めていること」をよくご存知でいらっしゃいます。
以前は「高級な響板はルーマニア産のスプルース材」と決まっていたようなものですが、そのうち、「アラスカをはじめとして別の産地の木材」が主流になってしまいました。
それから、今に至っては、残念ながら、木材の原産地の変更の必要ばかりか、合板の製造技術だけが発達していることを否めません。それらは、ピアノの音色や響きの質を著しく落としてしまっていることに、異論を唱える人は恐らくいないでしょう。
ここで、ミケランジェリ氏の「手工業的に作られるべき」という言葉について、注釈を加えたいと思います。
彼は、決して「ピアノの生産システムがハンドメイドであるべきだ」と言っているのではありません。
アクションや鍵盤など、均質な精度が求められる部品の加工や成型については、工作機械を用いた方が正確であるという利点もあります。
因みに、私のグランドピアノの低音弦は、「手作業」によって銅線が巻かれています。しかし、それについて調律師さんに尋ねたところ、「機械の方が精度が高いこともある」というご説明を頂きました。しかし、アニバーサリーモデルですので、一般の同機種より「木材」をはじめ良い物が使用されています。
ピアノは、人の感性に響く楽器ですから、やはり最後の仕上げは職人さんの手で、時間をかけて作り上げて欲しいところなのですが、社会事情の急速な変化に伴って、それが難しくなってしまいました。
つい先日、ある行きつけのスーパーで、今まではレジ係の人が精算してくれてたのに、突然、精算機なるもので、自分で機会にお金を投入して支払いをするシステムに、変更されていました。
ピアノの製造というものは木材だけでなく、そのような「社会の動き」とも密接に連動していますから、楽器を知るためには、社会全体の動きに敏感である必要があるのです。
これから楽器をご購入なさる方は、じゅうぶんな知識を蓄えてから、慎重にお選びになることをお勧めします。
新品のピアノの場合、「製品の個体差は止むを得ない」(アップライトピアノの場合、某メーカーでは個体の選定が出来ません。)ので、そこは妥協したとしても、「何を基準に、どのように入手すれば失敗しないか」というイメージを、事前にしっかりと描いておいて下さい。
お一人お一人が満足できるピアノを出会って、一生音楽を愛好していかれることを、心より願っております。
このブログへのコメント