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インベンションは易しいのか難しいのか?

バッハのインベンションは、多くのピアノ学習者にとって鬼門であると言われています。
一曲一曲を完成させるのに大変時間がかかるということは、皆さんに共通していることなのです。
インベンションは初級から中級に移行する時期に用いられる教材ですから、レベルとしてはさほど高くないと言えます。
では、何故この曲集が多くのピアノ学習者を悩ませることになっているのかについて考えてみましょう。
この曲集に収録されている作品は、「ポリフォニー」という複数の独立した声部を重ねる手法によって作られています。
これに対して、単一の旋律が和声に乗っている音楽は「ホモフォニー」と呼ばれており、この作曲技法によると主旋律以外の声部が和声を形成しているため、左手は主として伴奏を担当することになるのです。
ただし、各曲の中にはその両方が混在することが多いため、区分が出来るわけではなく、あくまでも「どちらの側面が強いか」という見方になります。
「インベンション」は、同作曲家による「平均律クラヴィーア曲集」という全2巻から成る作品を演奏するための、謂わば、導入書としての位置付けにあります。
この平均律クラヴィーア曲集においては、各曲が「プレリュードとフーガ」という二つのパートによって構成されており、前者が比較的自由な作風であるのに対し、後者は厳格な制約のある形式に則って書かれています。
フーガというものには、或る声部が単独で開始し、次いで別の声部が同一旋律を5度上(4度下)で模倣するという規則があり、最も一般的なものとしては、提示部と嬉遊部が何度か反復された後に追迫部が現れるといった形を呈しています。
フーガの中には、提示部ごとにそれぞれの声部が変形を伴いつつ同旋律を順次演奏するといった特徴を持つものもあり、又、フーガの種類によって求められる作曲技法は異なります。
こういった複雑なフーガを演奏することが出来るようになるためには、まずインベンションを学習する必要があります。
インベンションにはフーガほど厳格な形式が適用されている訳ではなく、あくまでも「フーガ的要素」や「カノン的要素」が適宜に用いられているというものです。
いずれにせよ、学習途上にある生徒さん方は、使い慣れない左手を旋律として歌わせなければならないのですから、習得に時間がかかるのは当然のことなのです。

このことに加えて、インベンションを難しくしている要素が他にもあります。
それは、「複数の旋律を同時に聞き取ることが出来るだけの聴力を求められる」ということです。
私は自分の生徒に、「一つの声部を片手で演奏しながら、もう片方の声部を声に出して階名唱するといったことを日々の練習に採り入れること」を勧めています。
左手のパートを弾きながら右手のパートを歌うことは比較的たやすいかも知れませんが、逆は大変難しいとお感じになることでしょう。
手の運動能力を向上させることに偏った練習方法だけでは、この聴覚的能力を向上させることがあまり期待出来ません。
最後になりますが、お用いになっている楽譜のエディションを確認して下さい。
多くの先生はヘンレ版などの「原典版」を推奨されていますが、これは作曲家の意図に忠実にあるという点では優れる反面、知識や経験が乏しい学習者が使用すると困難をもたらす可能性を孕んでいます。
クラシック音楽を解釈するにあたって、絶対的な権威を持つとされるのは「作曲者のみ」ですから、「解釈版」「校訂版」と称されるエディション即ち、作曲者以外の考えが書き加えられた楽譜は、専門家の間にあっては必ずしも高く評価されているものではありません。
しかし、学習途上の生徒さん方が原典版を使用するとなると、テンポ、フレーズ、強弱、指使い、装飾音符といった基本的な事柄においてさえ、大きな過ちを犯すことが有り得ます。
作曲家が書かなかったことについてヒントが加えられた複数の解釈版や校訂版を対照させることで、生徒さん方は「同じインベンションでありながら、こんなにも多様な弾き方や解釈があるのか。」と驚き又、作品に対して新たな認識を持たれることでしょう。
楽譜を何冊も用意するのにはお金がかかりますが、後に大きな実が成ることを考えると、それは決して高い買い物ではないはずです。
単に、印刷された譜面を目で追って音を出すといった受け身の練習方法ではなく、楽譜と向き合いながら何が正しい方法か、どれが自分に合っている奏法か、作曲者の意図はどこにあるのかといった事柄を自ら模索してゆくことが大切です。
「インベンション」とは、本来、「創意・工夫」という意味ですが、バッハ自身は「インベンションとシンフォニア」への序文に次のように書いています。したがいまして、彼が原義を離れて、「探求や発見」といったことを使用者に期待していたであろうことは容易に窺い知れます。
≪鍵盤楽器愛好家、とりわけ学習希望者が2声部を綺麗に演奏するだけでなく、更に上達したならば3声部を正しく、そして上手に処理し、同時に優れた楽想(inventions)を身につけ、しかもそれを巧みに展開すること、とりわけカンタービレの奏法を習得して、それとともに作曲の予備知識を得るための明瞭な方法を示す正しい手引き。アンハルト=ケーテン公国宮廷楽長 1723年 ヨハン・セバスティアン・バッハ作≫
これらの助言が、生徒さんのピアノ学習に役立つことを願っています。


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