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〈楽譜を選ぶ〉に追加〜楽譜にあるものを省くのは意外と大変!

楽譜を選ぶということについて、前回は長い記事になりました。

さて今回は、前回ブログを書きながら思い出した私の経験談を追加したいと思います。またまた長くなりました。汗


ピアノソロ曲では楽譜に書いてある音を全て弾くことは当然のことですね。楽譜にない音を追加することはないし、楽譜にある音を省略することもありません。
クラシックのレパートリーでは、ね。近現代の作品で即興的な要素がある曲では音を追加することはあるし、作曲家と共同作業で作品の初演をする際は音を追加したり省略したりすることもありますよ〜!

そして強弱、アーティキュレーション、フレーズ、表現の指示など楽譜に書いてあることを忠実に再現することが求められます。
その上で、楽譜に書いていないアーティキュレーションや強弱、表現やペダリングなど。。。つまり〈解釈〉を先生や自分が書き込んでいくことは頻繁にあると思います。ざっくり言えば、

楽譜に無いものを足していく作業

ですね。この作業によって作品と深く関わることが出来ます。そして、その作品を生み出した作曲家が何を思ったり考えたりしていたのかな、と想像する楽しさも生まれます。私はいつもこんな感じで作品に取り組むし、レッスンでは会員さんの楽譜やノートに色々と書き込みをしています。





しかし逆に、

楽譜にあるものを省く作業


をしたことがあります。
タングルウッド音楽祭にて、オペラの稽古ピアノを担当した際のことでした。タングルウッド音楽祭については、以前のブログで少し触れました。

2010年の夏。私はタングルウッド音楽祭にてリヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ「ナクソス島のアリアドネ」の稽古ピアノを担当していました。

稽古ピアノとはオペラのオーケストラが奏でる音楽をピアノ1台で弾くことです。オペラハウスで歌手がオーケストラと一緒に稽古する段階になるまで、音楽稽古や演出の稽古のあいだはピアノ1台でオーケストラの音楽を弾くことになります。
※以前のブログでオーケストラ音楽をピアノで弾くことについてシリーズで書いています。

さて、音楽祭開始前に通達された事前準備は、2つ。
●テンポで最初から最後まで弾けるようにすること。
●歌詞(ドイツ語)をすべて理解しておくこと。

それまで私にはオペラの稽古ピアノを弾く経験はほとんどありませんでした。「ナクソス島のアリアドネ」のピアノ譜は、とにかく音が多くて難しかったです。しかも、なんと230ページほど!オペラは長いからね。。。
音楽祭へ向かう前日ギリギリまで、本当に必死で準備しました。
歌詞と台詞の対訳本を見ながら全て書き写し、CDを聞いて音楽の流れを把握し、オーケストラが奏でる音を再現することを目標に練習。オペラは2時間強あるから、例えるなら大曲揃いのソロリサイタルを準備する感じでした。
私と同じように音楽院で伴奏ピアニストとして勤務していた同年代の友人も音楽祭フェローに選ばれており、同じオペラを準備していました。彼も必死!でしたよ。

そしていざ、音楽祭へ。タングルウッド音楽祭では毎年オペラ公演があります。出演する歌手とオーケストラ奏者は全員フェローですが、舞台監督や制作、演出、指揮はプロが招聘されます。そしてメトロポリタン歌劇場(通称MET)のコレペティトゥーア(オペラの伴奏を専門とするピアニスト)が稽古ピアノと声楽のフェローを指導し、約1ヶ月かけて公演まで準備していきました。

私はなんとかオペラを最初から最後まで弾けるように準備していましたが、とにかく必死で弾いている!という状態でした。ピアノソロ曲並み(またはそれ以上?)に音が多くて難しい譜面。ピアノソロ曲を弾くように全部の音を弾こうとして、必死だったのです。

そして音楽祭にてMETのハワード・ワトキンス氏に言われたコメント。
※ワトキンス氏は近年日本に招聘されて後進の指導もされているので、ネットで検索すれば経歴が日本語で出てきます。すごいピアニストだし、人柄も温かくて素晴らしい方なんです。


ヨウコ、頑張って弾いているね。
でもね、
ピットから聞こえる音だけ弾いて。
ぶっちゃけ言うとね、
目立つメロディーと低音の動きだけでいいんだよ。
歌手はそれを聞いて歌うわけだから。
余計な音を弾いたら歌手が混乱するでしょ。

※ピットとはオーケストラピットのこと。オペラハウスでは舞台の下でオーケストラが演奏しています。その場所が通称ピットです。ピットの半分ほどは舞台より客席側に出ているけれど、もう半分は完全に舞台の下です。

それを言われたときの衝撃といったら!
「これまで必死で全部の音を弾こうとしていたのは、何だったの?」と、悔しいし、拍子抜け。

そこで、〈メロディーと低音部以外は省略する〉作戦、開始!
例えばこんな感じ。内声は省略!↓
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こちらは、左手オクターブの低い方が「低すぎてピッチが聞きとりにくい音域だから、弾いても意味がない。それにオクターブを弾くと左手が連続跳躍になって大変だよ」(ワトキンス氏)だから省略!
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これは第1幕の最後。とにかく音が多すぎ!いろいろ省略!
(手が3本必要だよ、これ!)
ピアノ教室.COM


以上のように、不必要な音を省略する作業をしていきました。
そうしたら弾くのが楽になるかと思いきや、気づいたことは、

書いてある音を弾かないのは、意外に大変!


ということでした。

これまでピアノソロ曲や室内楽や歌曲など、書いてある音を全部弾くのが当たり前でした。だから、

●書いてある音を弾かないことに、慣れていない。
●この音も省略しちゃうの?とか、変な罪悪感を感じる。
●書いてある音と弾く音の数が違うと、頭が混乱してくる

そんなことを感じました。全く初めての体験でした。
音を省略するという作業は、言葉を変えれば楽譜通りに弾かなくても音楽を把握するということなのです。

これ、大変だったな。。。





続きます。


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