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♪楽譜を深く読む(その2)

 版による楽譜上の違いとして、ベートーヴェンの「月光」(ピアノソナタ作品27-2)第一楽章冒頭のスラーのかけかたを例に見てみます。

 ある版では冒頭から4小節以上にわたるスラーで3連符がつながれ、続きは“simile”(同様に) として省略されています。この場合、曲は冒頭から滑らかにすべりだし、よどみなく右手のメロディーにつながっていくはずです。それまでの3連符は主題を導き出すための背景として変化を極力控えて演奏されなければなりませんし、前奏全体でひとつの世界を表現する感じになるでしょう。

  違う版の右手では小節ごとに異なったスラーの書き分けがされています。 ここでは第3小節になってから初めてスラーが出てきます。細かく書き分けられていますので冒頭のスラーは出版の途中で抜け落ちたのではないでしょう。ベートーヴェンがあえてこの2小節にスラーを書かなかったとすれば、途中から出現するスラーには特別な意味が込められていることになります。

  後者では第1,2小節はまだ動きは始まっていません。3小節のふたつのスラーで波が始まり、第4小節で初めてひとつの大きなスラーで1小節くくられ、第5小節では曲全体を突き抜けるパルス(脈)となってメロディー導入に連結されていきます。それぞれのスラーの中で表現も変わってくるでしょう。そしてスラーを注意深く見ることで、ベートーヴェンに内在するひそやかな息遣いが感じられてきます。テンポにも大きな影響があるので、どの版を選ぶかで演奏がまるで変わってしまいます。

 そこで切り札は自筆譜を見る、ということになるのですが、残念なことにこの曲の自筆譜はなんと第1ページ目と最後のページは欠落しています。使い込んだ楽譜は表紙がはずれてしまうように、ベートーヴェンの楽譜は外側がぼろぼろになっていたのかもしれません。自筆譜での確認は不可能です。

 ただ、初版譜でスラーの書き分けを見ることができます。作曲者が印刷の際更に修正や訂正を加えることがありますから、ベートーヴェンが初版に立ち会っていれば初版譜は自筆譜以上に信頼できることになります。いずれにしても過去の作曲家に会うことはできませんから、何が正しいか聞くことはできません。

 私の恩師は2台ピアノの新作の初演をよくされていましたが、作曲家は楽譜の持つ伝達力の限界について「楽譜とは想いの30%くらいしか表現できない。」とこぼしていたそうです。そうかと思えば反対に、書いたこと以上の演奏だった、と満足する作曲家もいます。

 また、ショパンは常に修正を加えていたのでどの楽譜も微妙に違い、それが本人の修正のせいなのか、校訂者が変更したものか分かりづらいという問題があります。

 楽譜について考えるほど分からなくなっていきそうですが、さまざまな情報から聴こえてくる音を作曲家のメッセージとして聞き取ることが演奏する側にも興味深い作業であると同時に表現に深みを与えます。自信を持って音に反映させるためにも、たくさんの資料や情報を収集し真摯に楽譜に向かい合うことが大切ですし、その中から選びとった音符は必ず演奏の説得力として反映されるはずです。



















































































































































































































































































































































































































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