水の上の反映
ピアニストの小川典子さんは、子供の頃ホールでアンドレ・ワッツ(アメリカのピアニスト,2023年7月没)の弾く、《映像》第1集“水の上の反映” (Reflets dans l'eau)を聴いて衝撃を受けたそうです。
この曲は、フランスの作曲家ドビュッシーが1905年頃に作曲しました。水の様々な姿やその時の光や空気感を音で表現した音楽で、微妙なニュアンスがグラデーションのように浮遊し、まるで水面や水の粒々を見ているような、本当に魔法のような響きです。
美しく透明感のあるアンドレ・ワッツの音は、時に力強く、時に繊細に、様々に姿を変えます。彼のテンペラメントな全身全霊の演奏は聴き手の心をつかんで離しません。
バッハ、ベートーヴェン、ショパン、リストなどの和声のはっきりした作曲家の作品を中心にレッスンを受けていたという小川典子さんは、今まで知らなかった20世紀の響きに初めて触れ「この世の中にこんなにきれいな曲があるのか!」と感動したといいます。
私も初めてこの曲に出会った時のショックは忘れません。
ピアノの音が水の雫になったり、大きくうねる水流に変わったり、更に風景の中の空気の匂いまでも表現されているのです。ピアノにこんなにも色々な音が出せることを知らなかった私は夢中で練習しました。
ところで、小川典子さんはこの曲を当時師事してらっしゃったピアノの先生にかくれて弾いていた、とおっしゃいます。レッスンで主軸となっていた作曲家の曲ではなかったからです。
しかし、実はかくれて好きな曲を弾くのはとても大事なことです。いいえ、むしろ家では好きな曲も自由に弾く方が自然です。教室の生徒さん方には、先生が弾きなさいと言ったもの以外は弾いてはいけないと勘違いされている方が意外と多いので、私は事あるごとに、習っている曲以外にも『勝手にいろいろ弾くのが大事』、と紙にも大きく書いてお伝えしています。
好きな曲に出会ったらとにかく弾いてみること。難しいかどうかは別として、とにかくその曲の好きな一部分でもいいから自分の指で奏でてみること。
素晴らしい曲は、出だしの和音をひとつ鳴らすだけでも、好きな部分をたどたどしく弾くだけでも、音が身体に入ってきて心を震わせます。
鍵盤を押しさえすれば、偉大な作曲家と同じ感動を味わうことができるのです。
便利なものがいろいろ発達した現代でも、楽器を演奏する人がいなくならないのはそこかな、と感じます。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室
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