世界で一番おいしいいちご

いちごの季節が来ると、いつも

ある生徒さんのことを思い出します。

その頃出張レッスンで伺い、

お姉ちゃんと弟くんのレッスン、

そしてお兄ちゃんの音楽のテスト対策を

させて頂いていました。

レッスンが終わると、いつもお母様が

お茶を出して下さいます。

ある春の日。

お茶と一緒に小さなお皿を

出してくださいました。

そこには小指の爪ほどの

いちごが二つ、のっています。

「どうしても先生に出してって

聞かないので」

お母様は申し訳なさそうに

おっしゃるのですが。

そのいちごは、実は幼い弟くんが

育てた苗にたった二つ実った

貴重な貴重ないちごでした。

せっかく育てたんだもの、

食べたいでしょ？一緒に食べ

ようよ、と言ったのですが、

弟くんは顔を真っ赤にしてどうぞ、と

言うばかりです。

小さな小さないちご。

やっと実ったいちごです。

心からお礼を言ってゆっくり頂きました。

実際にどんな味だったかは正直言うと

覚えていません。でも私にとっては

いまだにこのいちごに勝るいちごは

ありませんし、幼い彼の温かな気持ちを

思うと今でも嬉しい気持ちで

満たされます。






レッスンではもちろんピアノが

上手になるため、音楽を楽しむために

レッスンさせて頂いていますが、

心の交流やお互いを思いやる気持ちが

あってこそと考えています。

温かな思いを積み重ねることで

音楽と共に豊かな毎日を過ごせる

心を育てていくことを大切にしたい、

大切にしてほしいと願っています。



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