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病後の音


 風邪などで熱発した後の数日は音の聞こえ方がおかしい。なんとなく音の高さが下がっている感じがする。熱で耳の構造のどこかがいつもと違う状態になっているのだろうが、病院に行くまでもなくいつもいつの間にか治ってしまうので理由は分からない。

 違和感を特に感じるのはピアノを弾いたときで、音そのものもそうなのだが聞こえてくる方向が違ったり、ピアノの内部音のようないつもは聞こえないものまで聞こえたりするのに、耳が何かに覆われている気がする。でも難聴とまではいかない。

 リヒテルは晩年コンサートで譜面を置いて演奏したが、原因は忘れてしまうからではなく、自分の中の絶対音感と実際耳から聞こえる音の間にずれが生じたからだそうだ。加齢により、自分の弾く音が一音ずれて聞こえるようになってしまったがゆえに膨大な量の暗譜されたレパートリーがすべてくるってしまった。実際彼の記憶力は全く衰えておらず、むしろ驚異的だったと言われている。

 ホルショフスキーは100歳近くまで現役ピアニストだったが、晩年視界の中央が見えていなかったという。何十年も弾いてきたレパートリーは指が鍵盤の場所を覚えてしまうから、これほどの巨匠なら弾けるにしても、耳は衰えなかったのだろうか。気難しい老人の素顔とは裏腹に、彼の紡ぎだすピアノの音は温かい音の中に微笑みさえ感じる。

 ホールでもいろいろな音の聞こえ方がある。次々と演奏者が順番に代わる演奏会では同じ楽器でこうも音が違うかというほどだ。上手い下手以上に怖いのはソバナリ(傍鳴り、側鳴り)と呼ぶ響き方だ。すべての楽器、声楽家の演奏に当てはまり、近くで聞くとものすごく鳴っているのに遠くから聞くとさっぱり…、という鳴り方である。一流の演奏家は小さな音でも遠くまで飛ばす。「レナータ・スコットが熊本に来た時にはね、もう本当に小さな声でも県劇(熊本県立劇場大ホール1800名収容)の3階までしっかり聞こえたのよ~!」という興奮交じりの話は何度も聞いたことがある。

 バックハウスやケンプは大ホールを親密な中ホールに変えることが出来たというが、これはもうソバナリや、遠くへ音を飛ばす、とかの次元を超越した、本当に手が届かない特別な才能。 シューマンは幻聴を聞いてそこから作品のインスピレーションを得ていたという。 音の始まりと終わりを命のようだと言うピアニストもいる。 ベートーヴェンは聞こえない音を感じようとしてピアノを噛んだという。

 私の聴覚の違和感もいつの間にか治ってしまうのは今だけで、年齢的に治らない時がくるかもしれない。こんなことを考えるのは、病後は音だけでなくすべてに敏感になるものだからかもしれないけれど…。

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