ピアノソナタ第13番 D. 664:シューベルト

即興曲、楽興の時などのピアノ曲が有名なシューベルトですが未完成のものも含め生涯に渡り数多くのピアノのためのソナタを書いています。
やや敬遠されがちなのは、その難解さ、はたまた長大さの故でしょうか。しかしそこにもまた作曲家シューベルトとしての葛藤や人間としてのやるせない魅力が滲んでるようにも感じます。

さて、そんなピアノソナタ群の中でも、整った均整と美しさを湛えた１曲がこちらのピアノソナタD. 664です。
暖かなイ長調で描かれた音楽。どこを切り取っても泉のように湧き出る美しい旋律に彩られた一楽章、田舎の風景のような素朴さのなかに孤独なノスタルジーが影を潜める二楽章。軽快な舞曲、時にピアニスティックな盛り上がりをみせる三楽章。

昔、何かの本で、あるピアニストが｢この音楽には人間としての悲しみの全てが詰まっている。｣と語っていました。その言葉に深く共感したことを覚えています。
秋の黄昏でしょうか、またはしんしんとした冬の夜に抱く春への憧景でしょうか。

師走の冷えきった空気の中で、内側からそっと暖めてくれるそんな音楽だと思います。