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目の前の楽譜を信じすぎちゃいけない! その6

ブラームスの間奏曲 作品117-2の楽譜について調べています。

フェルマータの謎を調べています。これがあるか無いかで、演奏が変わります。


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曲の中間部分の直前と直後に書かれているフェルマータ、合計5つ。

自筆譜(写真参照↑)、旧ヘンレ版、ウィーン原典版にはフェルマータあり。

初版楽譜、ペータース版、ブライトコプフ&ヘルテル版、ヘンレ改定新版にはフェルマータなし。




フェルマータが記譜されているウィーン原典版の注解には以下のように書かれています。


「このフェルマータは、ことによれば印刷の際の見落としか、あるいはたぶん印刷見本として用いられた写しに載っていなかったかもしれない」


ふむ。校訂者ミュラーさんは「フェルマータをつけることがブラームスの真意だった」と解釈したようですね。他の要素では初版楽譜を尊重していたミュラーさんですが、この点でのみ自筆譜を尊重したのです。
でも、自筆譜を筆写する段階や印刷の段階で5つあるフェルマータ全てを見落とすなんてこと、あるかなぁ?ミュラーさんの説明は説得力に欠ける気がします。



さて、フェルマータを記譜していないヘンレ改定新版の注解には以下のように書かれています。(英語からの拙訳)

「5つのフェルマータが自筆譜と印刷用見本に記譜されているが、初版楽譜には記譜されていない。ブラームスが加筆訂正した初版楽譜にも加筆されていない。ブラームスからジムロック宛の葉書(しかしこの葉書には日付がなく損傷があり、明らかに送付されなかったと思われる。ハンブルクの州立大学図書館所蔵)によれば、ブラームスは印刷の最終段階になってこの5つのフェルマータを削除したが、その後、小さいフォントでカッコつきでフェルマータを記譜しようと考え直したようである。結局のところ、このフェルマータは印刷楽譜から削除された。」



むむむ。
【日付がなく損傷があり、明らかに送付されなかった葉書】だって。音楽学者はこんな資料も調べるのね。大変だわ。。。



ここで、ウィーン原典版の校訂者ミュラーさんの「印刷の際の見落とし、または印刷用見本に載っていなかった」という推測は間違っていたことになります。
おそらくミュラーさんが校訂した当時(1970年代前半またはそれ以前)には、この印刷用見本は資料として手に入らなかったものと考えられます。

ウィーン原典版が世に出た後に、印刷用見本など新たな資料が見つかったのでしょう。(未発送で傷のある葉書までね。よく見つけたもんだわ…)


ヘンレ改定新版は2013年の出版です。校訂者カトリン・アイヒ(Katrin Eich)さんが新たなものを含め全ての資料を詳細に調べた結果が注解に反映されています。
この注解を読んだら、
ブラームスはこのフェルマータについてかなり試行錯誤したらしい
ということが分かります。


おもしろ〜い!!





謎のf は明らかに印刷前の校正段階でブラームスが削除したと思われます。しかし、このフェルマータは印刷用見本にまで登場しているのです。

「見本にあるフェルマータは削除してってジムロックに伝えたけど、やっぱり付けた方がいいかなぁ」
なんて、ブラームスが悩んでいたのかも?





ブラームスの間奏曲 作品117-2に出てくる、5つのフェルマータ問題。

【確実にフェルマータ無しが正しい】とは言い切れないと思います。
演奏者は、ブラームスが試行錯誤していたことを認識し、自身が納得できる演奏を目指すべきだと思います。




最後に、ブラームスの親友クララ・シューマンが作品117について述べた言葉を。

「これらの曲はわずかの箇所を除き、指のテクニック面ではそれほど難しくありません。でも精神面では洗練された洞察力が必要でしょう。ブラームスが考えたように演奏するには、演奏者自身がブラームスに精通していなければなりません。」


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